Betcha by Golly, Wow
この楽曲は元々”Keep Growing Strong”というタイトルで、70年代フィラデルフィア・ソウルを作ったと言われるトム・ベル(Thom Bell)とリンダ・クリード(Linda Creed)によって作られ、コニー・スティーブンス(Connie Stevens)によって1970年に録音された。
by Connie Stevens ヴァージョン
そして、1972年にタイトルが現在知られている「Betcha by Golly, Wow」としてフィラデルフィア ソウル グループのスタイリスティックス(The Stylistics)のアルバムからリリースされヒットした。
by Stylistics ヴァージョン
ちなみに私の場合、プリンスのカバーがきっかけでこの曲を知りました。
by Prince ヴァージョン
最初はカバーだと知らず、何も知らなかった私はプリンスが作曲したものだと思っていて、「プリンスってすごいな」と思っていました。しかし、後でカバーだと知り、オリジナルを凌ぐほどのクオリティーに再度驚き、そして、プリンスがこういう楽曲から影響を受けていたことに妙に感動した記憶があります。
調べていたら、非常に詳しい情報を見つけたので、是非そちらを読んでみてください。
↓こちら
楽曲分析の前に分数コードについて
まず初めに、この楽曲は、分数コード(オン・コード)、susコード、そして、転調について理解しなければ分析できず、これまでの楽曲の中で、または、いわゆるポピュラー・ミュージックの中でも分析するのが最も難しい部類に属すと思われます。しかし、上述の要点を理解すれば、自然にかつ明確に楽曲分析ができます。この楽曲では主に2種類の分数コードにが使用され、それによって転調されている。転調されていないこともあるが、転調する場合は、どちらも急な転調で、平行長でも同主関係調でもない調性への転調です。急な転調ではありますが、ハーモニーの特性や旋律的な特性を生かし、非常にスムーズな転調と言えるでしょう。
2つの転調方法は転調先のドミナントを分母、サブドミナント系を分子に置く形が基本形です。
「Subdominant系/V」
※Subdominant系=ii, IV, iv
この分数コードの由来はドミナントコードのsusコード(Vsus4)であり、導音(=leading note)の代わりにsus4(=11)を使うことによってドミナントのドミナントらしさが薄れ、さらにセブンスやテンション(7th, 9th,13th)を加えることによって、サブドミナントの要素が増えたコード、つまり、ドミナントとサブドミナントの融合されたコードである。通常、susコードは4から3へ導かれるが、このVI/Vコードの場合、sus4が3にならなくてもこのコード単体で特徴的なサウンドがし、IV/V→Iのように直接トニックへ進行できることから、susの扱いではせず、単体のコードとして使用されるようになったと考えられる。
例 FM7/G=G7sus4(9,13,)の構成音
F=7th
A=9th
C=11th or 4th
E=13
『サブドミナント系/V』の種類と特徴(効果の度合い順)
A: IVM7/V=F(7th)、A(9th)、C(11th)、E(13th)
→ドミナントコードのセブンスおよびテンションが最も多く使われることから、一番ゴージャス感がある。おそらく一番よく使われている。
B: ii7/V=D(5th)、F(7th)、A(9th)、C(11th)
→Aよりテンションの数が少なく、マイナー・コードであることから、ゴージャス感は若干減るが、こちらもよく使われる。
C: vi/V=A(9th)、C(11th)、E(13th)、G(1st)
→AやBに比べると大分特徴の無いサウンドで、あまり使われることはない。
この楽曲で使用される2種類の「Subdominant系/V」と転調先
タイプ①: 元の調性のトニックから短3度上(=長6度下)の調性に転調するもの。
例 m.4-6 EM7 - Am7/D - GM7
スタート ← 短3度上 → ゴール
タイプ②: 元の調性のトニックから全三音(トライトン)の調性に転調するもの。
例 m.8-9 GM7 - F#M7/G# - C#M7
スタート ←トライトンの関係 → ゴール
タイプ①の場合、分子のサブドミナントは、転調先のii7であると同時に転調前の調性のサブドミナント・マイナー、ivであり、これは2つの調性の枢軸、つまりピボット・コード、かつ、モーダル・ミクスチャー(Modal Mixture)とも言える。よって、急な転調ではあるがスムーズな転調である。
タイプ②は、タイプ①のような転調前と転調後の調性の共通性や関連性を示すピボット・コードやモーダル・ミクスチャーのような要素はなく、単純に転調先のサブドミナント(IV)が分子、ドミナント(V)が分母となっているように思える。しかし、転調が極めてスムーズに聞こえるのは、ボイスリーディング(運声法)の観点から説明することができる。
分かりやすく説明する為に、F#メジャーから全三度先のCメジャーに転調する場合、進行はF#M7 - FM7/G - CM7となり、ベース・ラインは、F#→G→Cとなる。すると、元々、和声的には関連が無かったものが、旋律的にF#がGに導かれてCに解決するという流れが見えてくる。
次に上述のベース・ラインの流れを踏まえて、それ以外の(分子の)音を見ると、F#M7ーF M7ーCM7となり、前半のF#M7からFM7には全ての音が半音階下に移動する。そして後半は、CM7に9thを加えると、「FACE」から「EGBD」と4つの音が全て平行移動できる。
つまり、ベース・ラインとその上部の旋律が対位法的に動き、そして、半音階や音階上を平行移動することによって極めてスムーズに聴こえるのである。
分析
この楽曲はEメジャーを基調とし、以下の通り4部構成となっています。
イントロ - A - B - C
(イントロ部)
イントロは、ドミナントのペダル・ポイントから始まります。ドミナントのベースの上をiiとIが変化します(ii/V、I/V=分数コード)。クラシックでは(特にベートーベンの楽曲)最初の数小節で楽曲のモチーフを提示することが一般的ですが、ここでは、音符によるモチーフでは無く、ハーモニーによる響きをこの楽曲の特徴としても提示しているように思われます。m3~5にかけて、タイプ①の分数コードにより短三度上のGメジャーへ転調します。その後、A部を基調のEメジャーで始めるために再度転調をするのですが、この戻り方が画期的で非常に考えられた素晴らしい方法を使っています。たった4小節の間(m.8-11)に上述したタイプ①と②の両方の分数コードを使い連続転調をするのです。m.8ではGメジャーですが、次の小節で直ぐにタイプ②の分数コードを使って全三音のC#メジャーへ転調します。そして、m.10で再び今度はタイプ①の分数コードを使って短3度上で楽曲の基調となるEメジャー(m.11)へ転調するのです。分数コードを連続して使い転調を繰り返すこの部分がこの楽曲で最もゴージャスで印象的と言えるのではないかと思います。図で表すと以下のようになります。
基調
調性 Eメジャー Gメジャー C# Eメジャー
m. 1-5 5-8 9-10 10-14
タイプ ① 短3度↑ ② トライトン↓ ① (短3度↑)
伝統的な転調は、関係調、平行調、あるいは、調性の近いものの中で転調をするのが一般的ですが、ここでは楽曲の基調は変えずに、離れた調性の間でどのように転調し、どのように基調に戻るかという、伝統を因襲しつつ転調の解釈を広げたものと言えると思います。トライトンが短3度と短3度の組み合わせである特徴を生かし、その真ん中を基調(Eメジャー)とし、分数コードを使いその前後(GメジャーとC#メジャー)に転調する方法です。1950年台後半から特にジャズの世界では調性音楽の理論の解釈が大きく広がりましたが、そういう流れの中でできた論理ではないかと思います。
(A部)
Aは楽曲の基調であるEメジャーで始まり(m.11)、m15でタイプ①の分数コードを使ってGメジャーに転調します。m.16-17のコード進行が一見複雑そうに見えますが、大まかにB部を基調のEメジャーに戻るための転調と思われます。m.17のF#/Bは、前半にも出てきたコードであり、Eメジャーに戻るための分数コードIV/V(ドミナント・コード)です。では、その前のGm7/Cは何かというと、次のコード(VI/V)への代理コードによるドミナント・コード(b II7)と解釈できます。そして、B1はEメジャーのii7から始まります。以下の図は、元のコード表記と分かりやすい解釈による表記です。
基調
調性 Gメジャー Eメジャー
m. 14 15 16 17
コード GM7 Gm7/C F#m7/B F#m7
別解 GM7 C7sus B7sus F#m7
Roman I bII7/→ V7 ii7
タイプ ①でも②でもない ①
(B部)
B部は4小節のみでC1(コーラス)の準備のようなフレーズです。コード進行はスケール上を平行移動する進行が2回繰り返されます(ii7-iii3-IVM7(-iii7))。そして、驚くほど素晴らしいのは、2回目の最後のサブドミナント(AM7)のベースが下降し、この楽曲を象徴とするべき分数コードのタイプ①(のB)へ非常にスムーズに変化し、次のC1(サビ=コーラス)へと導きます(ドミナント・アプローチ)。
(C部)
Cは、基調のEメジャーで始まり、以下のような、ごくありふれたスケール上の進行に分数コード(タイプ①)を織り交ぜた進行です。そして、最後(m.29)の分数コードIV/VはB部同様にドミナント・アプローチして曲の曲の始まりのEメジャーへ導きます。
I - iv7 - V/→IV - IV/V - I IV/V
(個人的見解)
楽曲分析をすると、作編曲家であるトム・ベルが如何に論理的に楽曲を構築し、伝統を因襲しながら新たな段階へ挑戦したかが分かってくるような気がします。初めは難解に見えた楽曲が、分数コードの仕組みさえ理解すれば、割とシンプルに見えてくる。これが楽曲分析の凄さだったり必要性なのだろうと改めて感じました。この曲は1971年にヒットしましたが、その後もプリンスなど多くのミュージシャンにもカバーされ愛され続けている楽曲です。普通の楽曲には無い特別なサウンドとメロディーの美しさが、私には初め、何か人間が作ったものとは思えない、作曲家の天賦の才能みたいなものを感じましたが、その理由の一部を少し垣間見た様な気がします。また、トム・ベルは大学で音楽教育を受けています。おそらくですが、きちんとクラシックも勉強したのでは無いかと思います。天才的と思われる楽曲も、分析すれば作曲家がどのように工夫して作曲したかが見えてき、(才能もあるでしょうが)案外、きちんと考えて作ったのだろうということが分かってきます。作編曲家を目指す方々には是非このような事実を知って欲しいと思います。「こんな作品は自分には到底作れない」とは思わず、誰でもきちんと日々勉強すればかなり高いところまで音楽を理解し作ることができる、ということを。
歌詞
Intro
A1
There's a spark of magic in your eyes
君の瞳の中で魔法の光がはじけている。
Candyland appears each time you smile
君が笑うたびにお菓子の国が現れる
Never thought that fairy tales came true
そんなお伽話が現実になるなんて考えたことも無かった。
But they come true
でも、本当に現実になったんだ。
When I'm near you
君が僕のそばにいる時に
B1
You're a genie in disguise
君はジニーが姿を変えたものだろう
※ジニー=願いを叶えてくれる精霊
Full of wonder and surprise
不思議と驚きに満ち溢れ
And
そして
C1
Betcha by golly, wow
神に誓って、ワオ
You're the one that I've been waiting for forever
君は僕が永遠に待ち続けていた唯一の人なんだ。
And ever will my love for you
そして、僕の愛は君のために永遠に
Keep growing strong
強くなり続けるんだ。
Keep growing strong
強くなり続けるんだ。
A2
If I could I'd catch a falling star
To shine on you so I'll know where you are
もし僕に君がどこにいるのか分かるように照らすことができる流れ星を掴むことができたとしたら
Order rainbows in your favorite shade
To show I love you
Thinking of you
君のことを愛していること
君のことを想っていることを分かってもらうために
君の好きな色合いの虹を注文しよう
B2
Write your name across the sky
Anything you ask I'll try
‘Cause
君の名前を空いっぱいに書こう
どんな君の願いにも僕は挑戦するよ
なぜなら
C2(同上)
Betcha by golly, wow
You're the one that I've been waiting for forever
And ever will my love for you
Keep growing strong
Keep growing strong
C3
Betcha by golly, wow
You're the one that I've been waiting for forever
And ever will my love for you
Keep growing strong
Keep growing strong
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