top of page
執筆者の写真Hiro K

#5. Tea for two

更新日:2022年3月4日


作詞:Irving Casar(アーヴィング・シーザー)

作曲:Vincent Youmans(ヴィンセント・ユーマンス)


(参考音源)

Anita O’Day (vocal 1958)

Nat King Cole (piano 1957)

Blossom Dearie (vocal 1958)

Thelonious Monk (piano 1963)


(歴史)

1924年にアーヴィング・シーザーの詞にヴィンセント・シーザーが作曲したものである。この曲は1924年5月、シカゴのプレ・ブロードウェイ・ミュージカル(ブロードウェイのミュージカルになる前のミュージカル)「no, no, Nanette」の公演でフィリス・クリーブランド(Phyllis Cleveland)とジョン・ベーカー(John Baker)により初めて紹介(演奏)された。そしてその後、このミュージカルは1925年9月16日にブロードウェイでヒットし、ルイス・グルーディ(Luise Groody)がナネット(Nanetto)を演じ、ジョン・ベーカーとのデュエットで歌われたものがヒットした。これはユーマンス(作詞家)とシーザー(作曲家)の最も成功した楽曲となった。


(歌詞&和訳)

A

Picture me upon your knee

想像してみて、私があなたの膝の上に座っているのを想像して

Just tea for two and two for tea,

二人のためのお茶、そして、お茶のために二人

Just me for you and you for me alone.

あなたのための私、そして、私一人のためにあなた

B

Nobody near us to see us or hear us,

そばで私たちを見る人も聞く人もいない

no friends or relations

友達も知っている人も

on weekend vacations,

週末の休みに

We won't have it known,

私達は知られることはないわ

dear, that we own a telephone, dear.

私たちが電話を持っていることを 

A’

Day will break and you'll awake

夜が明けてあなたが目覚めたら

and start to bake a sugar cake

私は甘いケーキを焼くわ

for me to take for all the boys to see.

男の子全員に見てもらうために。

C

We will raise a family,

家庭を築きましょう

a boy for you,

男の子はあなたに

a girl for me

女の子は私に

Can't you see how happy we would be?

私たちどんなに幸せになれるのでしょうか?


(分析)

楽曲は以下のような明確な終止形により4部から構成されていることが分かる。

●A (m.6-7) ii - V - I(Bbm7 - Eb7 - AbM7)

(※m.7-8において、急な転調(=false key change)によりCメジャー・スケールのDm7(ii7)(m.9)へ導く。急ではあるが、ベースラインは順次進行(IM7-iim7-iii7-IVM7)であり、ベースとともに上声部の完全5度も半音階上昇の為(Dm7へ導く)、ボイス・リーディングの観点からするととてもスムーズな動きである。)

●B (m.14-15) ii7 - V7 - IM7 (Dm7 - G7 - CM7)

●A’ (m.23-24) ii7b5 - V7b9 - Im7 (Cm7b5 - F7b9 - Bm7)

●C (m.30-31) iim7 - V7 - IM7 (Bbm7 - Eb7 - AbM7)


第一部と第三部は共に8小節からなり最後の2小節を除きメロディーも和声も同じことから「A」と「A’」とし、第二部(m.9-16(8小節))はメロディーは長3度上昇すると共に若干の旋律の展開が見られ、そして何よりCメジャー・スケールと調性が変化するため「B」とする。


第四部(m.25-32)は、旋律が楽曲の中で最も高く、この楽曲のクライマックスと言える。第四部の始まりのコード(Bbm7)は、m.22から準備されている。


m.22のEb7(V7)からCm7b5(iii7b5)(m.23))の偽終止(deceptive cadence)を使用し、さらにそれを新たな調性Bbマイナー・スケールのii7b5に見立て※、ii-Vを使って第4部の始まりのBbm7(Im)コードを導き出している。この最後の第4部の前半の4小節はこの楽曲の中で唯一マイナーの調性であり、さらにその部分の歌詞は、”未来の二人”を歌っており楽曲の中で一番高い音(F=We(私たち))である。つまり、マイナー・スケールと音の高さによって、楽曲のクライマックスを作り出し、歌詞の切実さを表現していると言える。このように歌詞と楽曲が完全に連動しているのは良くあることであり、作曲家と作詞家の素晴らしいコラボレーションの結果であり、楽曲の深みを感じさせる重要なポイントである。

※m.23-24の和声 Cm7b5 - F7b9 (iim7b5 - V7b9)はpivot chord。

Bbマイナーに転調していることを裏付ける根拠は以下の2つ。

①m.26-27のF7とA⚪︎7はどちらもその後に続くBbm7(Im7)へのドミナント・アプローチであり、F7はV7、A⚪︎7は調性上の7番目のコードvii⚪︎7であり、Bbマイナー・スケールには存在し、Abメジャー・スケールには存在しないコードである。


②m.26およびm.28のGbはAbメジャー・スケールには存在せず、Bbマイナー・スケールに存在する。m.26のGbはその両隣にあるF7(V7)のネイバー・コードあるいはセカンダリー・ドミナントの代理コード「bII7/→」と解釈することもできるが、m.28のGbの再出とm.25-28のメロディーラインがBbマイナー・スケールを強調している。


第4部の後半、m.27-28において、調性は楽曲の基調であるAbメジャー・スケールに向かう。方法として、m.27のBbm(トニック)をAbメジャー・スケールのii7と見立て、それからDbmM7(ivM7)→Gb7(bVII7) をpivot chordとしてスムーズに基調のAbメジャー・スケールのトニック、Abmへ導いている。(m.28のGb7→Abは偽終止)よって、構成はABA’Cの4部構成。


(モチーフの分析)

最後にメロディー(モチーフ)についてですが、モチーフの特徴は主に以下の3点が挙げられる。

1. 最初の4小節の主な音をたどると、Ab→G→F→Eb(ド、シ、ラ、ソ)と音階の下降モチーフ。

2. 付点四分音符と8部音符の組み合わせ。

3. 各部の終わりは全音符とタイの組み合わせ。


Aで提示されたモチーフは、Bで長三度高い位置から始まると同時に若干の変化が見られる。A’で元の高さに戻った後、最後のCで最高地点F達する。A’で一度元の高さに戻ることによって、よりCの最高音Fが強調される。さらに、このCでは、元のモチーフが発展し、1で上述したAの音階下降モチーフが分かりやすくそのまま繰り返されている。これは作曲技法の常套手段と言える。


(個人的見解)

参考音源にもあげたブロッサム・ディアリーのものをよく聴いていました。分かりやすい曲の例として分析してみたら、予想に反して奥の深い楽曲だと思いました。洗練された和声進行と、それによる計算された転調。そして、モチーフの発展。よく考えられた作品だと思いました。

閲覧数:4回0件のコメント

最新記事

すべて表示

コメント


bottom of page